「私にとっては君は特別だけど、君はみんなにモテるから、10年後も20年後も、私だけが君を特別だと思っているのは嫌だ」「特別だって思ってるよ」「本当かなあ」「本当だよ。君は助けて欲しいときに助けてくれた唯一人だもん。感謝してるし、特別に思ってる」「なんでそういうことサラッと言えるの？君は人たらしだからなあ」「でも…君にとって特別の定義って何？」「ほら」「いや、誰が一番だとか、そういう風には比べられないよ。そんなの…無意味だし。でも特別なのは間違いないよ。じゃなきゃこうやってここにいない」「ううん、やだなあ…根本にあるのは…嫉妬心かも」「もっと自信持ってよ。好きだよ。たぶん特別でいたいと思うことって、普通だよ」

明日から旅行にいってくる　憧れの地　スコットランドとアイルランド　かの地にあるのは音楽とダンス、おいしいお酒、それから妖精と魔法、人の手を寄せ付けない雄大な自然、そして闘いの歴史　外国に行くといつも思うのは、文化とはどういうものなのかっていうこと　それは環境によって作られ、歴史によって作られ、血によって作られるものだっていうこと　今回の旅、鯉壱の目標は、黄色い風船を買って、揚げチョコバーを食べること　私の目標は……

音楽はちょっとヤバいくすり、ミルクティーもちょっとヤバいくすり、映画もちょっとヤバいくすり、たいへん中毒性が強く、摂取すると世界の見方が変わる　それはいずれあなたの人生になる　あなたが誰かの人生を変えるかも　だから、手をのばし続けて　欲しいものは欲しいでしょ　あなたには欲しいと思う心があり、欲しいと考える頭があり、欲しいと言うための口があり、欲しいと言う権利もあります　求めよ、さらば与えられん　かみさまは君のまわりにいる　君のそばで、君がどれだけ本気なのかを見ている　友達や、家族や、職場の人や、知らない他人のフリをして　欲しいあなたはどう動く？　みんなが君を見てる　期待をしてる　少し緊張する？　それなら魔法の呪文を唱えて　応援してくれてるひとたちが君にずっと言ってくれた言葉　君はできる　君がやらなきゃ誰がやる？　さァ声を上げろ　怖くても大丈夫　いつか全て、映画みたいな笑い話になる

そういえば、おきにいりの歩道橋も無くなってた　わたしあの上から眺める、オレンジの光で照らされた夜の国道が好きだったのに　あそこに登ると、見えない花火の音が聞こえるんだよ　感情12号列車が通る、我が国3番めの秘密の国道　あってなかったようなもんだよねとママは言った　誰も使っていなかったと　わたし、ちゃんと使ってたよ　みんなには見えてなかったのかもしれないけど　歩道橋があった場所には、真新しい横断歩道ができてて、地面に張り付いたしましま模様の影みたいだなって、ちょっと思った

近所のアパートがなくなりました　お取り潰しにあったんだよ　信楽焼のタヌキがぽつんとひとつ、ショベルカーがアパートを破壊する様子を、塀の上から見てました　妹はタヌキを欲しがって、ゴミなら持って帰りたいって、必死に訴えてたんだけど、工事が終わって残ってたらねと、わたしはぼんやり言うだけだった
　きれいさっぱり、何も残さず均された土地は、わたしに昔住んでたひとたちの思い出を、余計に思い出させてた　ブランコの立ち漕ぎを教えてくれたずっと年上の上級生とか　誰かがそこで飼ってた犬に、小麦粉ねんどで作ったおもちゃを見せてあげたら食べられちゃったこととか　おしろい花が咲く季節に、種をたくさんつんだこととか　わたしがぼんやりしているあいだに、みんないなくなって、気づいたら何も残っていなかった　ぼんやり上を見上げたら、空もずっと広くなってた　そこだけぽっかりくり抜かれて、もちあがって、どこかの星に飛ばされたみたいに
　あたりを探してみたけれど、タヌキはやっぱり居なかった　神様かもって思ってたって、あの子はわたしに言いました

今日は彼のことを思い出したから、例の喫茶店に初めて行った　入口の雰囲気と打って変わって、だだっ広い店内に、のんびり時計の音が響いてた　私はカフェショコラーノを頼んで、きっかり一時間三十分、ずっとそこで目を開いてた　彼女は現れなかった　その店にいたお客さんたちが、何を考え、何のためにそこにいたのか、あの人だったら、解ったのかな　一瞬を全部見逃さないようにするなんてムリだよ　目の前で起こっているのに、私たちはあまりに多くの一瞬を見逃している　まずはそれに気づくところからなんだ　そうでしょジェレミー